ビールの原料は「麦芽・ホップ・水・その他の原料」
ビールの原料は「麦芽・ホップ・水・その他の原料」です。酒税法第3条12号(2018年4月改定)において、ビールは麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたものとされ、そのほかにも(※)麦及びその他の政令で定める物品を原料として発酵させたものが含まれます。(※)の部分については副原料という扱いになり、麦芽の重量の5/100を超えないものという制限があります。現在3級のウェブ試験真っ只中ということもあり、ビールの原料について詳しくご紹介したいと思います。
ビールの原料①:麦芽
麦芽は麦の種子を発芽させ高温で乾燥させたものをいいます。麦芽はビールの主原料となる成分で、酵母による発酵でアルコールと炭酸ガスが発生し、ビールの色・のどごし・泡を作り出します。麦とは大麦や小麦、ライ麦などイネ科の植物を総称しますが、ビールの原料としては大麦が使用されることが多いです。大麦は約1万年前に西アジア~中央アジアにかけて栽培されており、世界最古の穀物といわれています。
大麦は「二条大麦」と「六条大麦」の大きく2種類がありますが、ビール醸造には「二条大麦」が適しています。二条大麦はウイスキーや焼酎などのアルコール飲料の原料に使われることが多く、六条大麦は麦茶や麦ごはん、味噌の原料に使用されます。
二条大麦の特徴
二条大麦はアルコール成分のもととなるでんぷん質が多いことや酵素力の強さなど、お酒を作るために必要な要素が揃っています。ほかにも以下のような特徴からビール造りには欠かせない原料となっています.。
・穀粒の大きさ、形状が均一で大粒であること。
https://www.brewers.or.jp/tips/production.html
・穀皮が薄いこと。
・でんぷん含量が多く、たんぱく含量が適正であること。
・発芽力が均一で、しかも旺盛なこと。
・麦芽にした際、酵素力が強いこと。
・麦芽の糖化が容易で、エキスの発酵性がよいこと。
麦芽の働き
大麦は発芽させて麦芽にすることよって、デンプンやたんぱく質を分解する酵素が生成されます。酵素によってデンプンは糖に分解され、たんぱく質はアミノ酸に分解され酵母の栄養源となってビールの発酵を促します。糖は酵母によってアルコールと炭酸ガスに変化し、ビールの色やのどごしに影響を与えます。大麦が麦芽となりビールの成分に変化する工程は以下のとおりです。
大麦の生産地
日本のビール醸造で利用されている大麦の多くは、製麦工程を経て麦芽として輸入されています。主な輸入国はドイツやフランスを中心としたEU諸国がもっとも多く、次いでオーストラリアとカナダです。ビールに使用される麦芽はほとんどが輸入ですが、1割弱の麦芽は国産大麦を使用しており、佐賀県や栃木県、福岡県などで栽培されています。
麦芽の焙煎(ロースト)
ビールの色やコクは麦芽の焙煎方法によって作り出されます。大麦は発芽して5~6日経つと成長を止めるために熱風で乾燥します。ビールの種類によって温度を調節し、焙燥が完了すると根を取り除きます。淡色ビールはそのまま麦芽をビール醸造に使用しますが、濃色ビールは穀粒内部のデンプンを糖化させて焙煎してから使用します。
焙煎の度合いによってカラメル麦芽・クリスタル麦芽・チョコレート麦芽・黒麦芽などと呼ばれ、風味や色合いが変わります。淡色麦芽と合わせて使用するのが一般的です。
ビールの原料②:ホップ
ホップはビールの苦みを作り出す成分でビールの味と香りに欠かせない原料です。ホップはアサ科の多年生植物の一種で、未受精の雌花(ルプリン)を使用します。ホップに含まれるアルファ酸が熱変化によってイソアルファ酸に変化すると、ビール特有の爽快な苦みが生成されます。イソアルファ酸はビールの泡形成や泡持ちにも影響し、ビールの重要な成分のひとつです。
ホップはビールの麦汁煮沸工程に添加され、主に苦みづけと香りづけの役割を担います。ホップには薬理成分が含まれ、リラックス効果や殺菌作用・利尿作用などの効能があります。ビールを飲んだときにトイレに行きたくなったり、眠くなったりするのはホップの成分によるものと考えられます。
ホップの主な効能
ホップの効能には苦み成分のほかに、以下効能があるとされています。
ホップの種類
ホップの種類は主に3種類で、それぞれ香りや苦みに特徴があります。主なホップの種類と特徴は以下のとおりです。
タイプ | 特徴 | 代表的品種 |
ファインアロマホップ | ・香りが穏やかで上品 | ・ザーツ(チェコ) ・テトナング(ドイツ) |
アロマホップ | ・香りはファインに比べて強い | ・ハラタウトラディション(ドイツ) ・ペルレ(ドイツ) ・シトラ(アメリカ) ・カスケード(アメリカ) |
ビターホップ | ・苦みが強い | ・マグナム(ドイツ) ・ヘラクレス(ドイツ) ・ナゲット(アメリカ) ・コロンバス(アメリカ) |
ホップの生産地
日本のビール醸造で使用されるホップのほとんどは輸入に頼っています。ドイツとチェコからの輸入がもっとも多く、次いでアメリカと中国から輸入しています。ホップは球花のまま輸送すると苦み成分が劣化するため、一般的には粉状やペレットにしてから輸入します。
国内のホップ生産者は約150軒で、主に東北で栽培されています。国内で有名なホップの品種はキリンビールの村上敦司さんが開発した「ムラカミセブン」やサッポロビールが品種登録した「ソラチエース」があります。ソラチエースを使用したビールはサッポロビールから発売されている「伝説のホップ SORACHI(ソラチ)1984」、アメリカのブルックリンブルワリーが発売している「ソラチエース」があります。ソラチエースは醤油のような変わった味わいのビールで、これまでのビールの常識を覆されます。
ビールの原料③:水
水はビールの9割を占めており、ビール醸造において重要な役割を果たしています。ビールづくりで使用される水のことを「醸造用水」といい、ミネラル分などを調節して水を磨くことによって、ビールの種類に合わせた水に仕上げます。水は産地によってミネラル分の含有量が異なり、一般的に硬水や軟水と表現されます。ビールのタイプによって水を調整することは、ビールの製造のなかで重要な工程のひとつです。
水の硬度
水には硬度とよばれる数値があり、一般的に軟水・硬水と称されます。水の硬度はカルシウムとマグネシウムの総濃度のことで、ミネラル成分を指します。硬度が低い水を軟水、硬度が高い水を硬水といい、日本の水の多くは軟水にあたります。日本人は飲み慣れているということもありますが、軟水はやわらかくのどごしが良いので飲みやすいのが特徴です。
ビールの醸造用水としては褐色や黒など濃色のビールには硬水が適し、日本のビールのような黄金色の淡色ビールには軟水が良いとされています。硬水を使用している濃色ビールと、軟水を使用している淡色ビールを飲み比べると、水の違いがよくわかります。
ビールの産地と硬度
塩類濃度(㎎/L) |
水質 | ミネラルウォーターの銘柄 |
0~70 | 非常に軟水 | 森の水だより、サントリー天然水(南アルプス・大山) |
70~140 | 軟水 | FUJI、六甲布引の水 |
140~210 | 普通 | 天然水 霧島(ファミマ)、岩根の水(鷲倉温泉) |
210~320 | やや硬水 | エビアン、ヴィッテル |
320~530 | 硬水 | ペリエ、ガルバニー |
530以上 | 非常に硬水 | コントレックス、サンペレグリノ |
ビールの原料④:その他の原料(副原料)
ビールは発酵助成や品質調整の目的で副原料が使われる場合があります。酒税法では「麦・その他の政令で定める物品」と表現され、主にデンプン質の副原料(麦・米・とうもろこし・コーンスターチなど)を指します。日本の酒税法ではビールに使用できる副原料はホップ・水以外の全原料の50%以下であること、果実および香味料の場合は麦芽の5%以下であることが定められています。この基準を超える場合はビール風味飲料とされ、発泡酒やリキュール類(新ジャンルとよばれる第3のビール)に分類されます。
主な副原料
副原料としてに使われる食材はデンプンの含有量が多いもので、もっとも一般的な副原料は大麦です。小麦やライ麦が使われる場合もあり、発酵を助成します。日本ではデンプン補充の目的で米を使う場合が多いです。サッポロビールは副原料にコーンスターチを使用し、メキシコのコロナビールはとうもろこしを副原料としています。ほかに着色料にカラメル麦芽を使用し、独特な色や香りづけをする場合もあります。
日本のクラフトビールにおいては副原料でオリジナリティーを追求しているメーカーが多いです。例えばコリアンダーや山椒などの香辛料やハーブ・コーヒーなどを使用した珍しいビールがあります。地方産のクラフトビールは特産物を副原料として、まちおこしの一環としている場合がよく見られます。2018年4月の酒税法改正によって使用可能な副原料が増え、幅広いテイストのビールが楽しめるようになりました。
ドイツのビールの定義
ビールを知ってさまざまな種類に挑戦しよう!
ビールの原材料を知ると、ビールの楽しみ方が変わります。実際わたしがビールを学び始めてから、色や味によってビールのタイプを見分けられるようになったり、自分の好きな水質を発見したり、ビールだけでなくミネラルウォーターや他のお酒の選び方も変わりました。自分の好みのビールもわかってきたので、新しいビールの探求がさらに楽しくなっています。コロナ禍が落ち着いたらビールの醸造所やタップルームに足を運んで、実地見聞を広げていきたいと思います。
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